プラごみ削減は今月末に大阪市で開かれるG20首脳会議の主要テーマのひとつです。
2016年に日本で発見された「ペットボトルを食べる菌」(分解に何年もかかるのではといわれていた)についてその後、研究は進展したのでしょうか?
その問題点と共にまとめました。
ペットボトルを食べる菌とは
ペットボトルを食べる菌がどのように日本で発見されたかをまず見て行きましょう。
もともと2016年3月発行の米国科学雑誌「サイエンスScience」(数年前小保方さん騒動で有名になった権威ある科学誌)に掲載された吉田昭介助教(慶應義塾大学理工学部、現奈良先端科学技術大学院大学特任准教授)、小田耕平(京都工芸繊維大学)らの画期的な論文が発端です。
吉田先生は、京都工芸繊維大の研究室らと共同し、ペットボトルリサイクル工場の敷地の土や泥から250のサンプルを採取し。サンプル中の多くの異なった細菌を培養しました。
この中から、ペットボトルの原料である薄いPET(ポリエチレンテレフタレート)を30℃6週間で、ほとんど完全に分解する細菌を見つけたのです。
大阪府堺市で採取した環境サンプル由来であることから、これをIdeonella sakaiensis 201-F6「イデオネラ・サカイエンシス201-F6」と命名しました。
細菌の遺伝子の解読を行った結果、この細菌に2種類の酵素が含まれることが分かり、これらをPETase(ペターゼ)とMHETaseと命名しました。
PETaseはPETを加水分解し、MHET(テレフタル酸1分子とエチレングリコール1分子が脱水縮合した化合物)とし、MHETase はさらにMHETをテレフタル酸とエチレングリコール(PETの原料に相当)に分解します。
これにより、環境中より分離した細菌201-F6株が、2種の酵素PETaseとMHETaseにより、PETを効率よく、PETの原料であるテレフタル酸とエチレングリコールに分解することが明らかとなりました。
この後は多くの菌を含めた働きにより、最終的には炭酸ガスと水になります。ただし、かなり長い時間を要します。
これまでPETは自然界で、分解されず蓄積するのみと考えられてきましたが、PETをエコシステムに組み込む生物的なルートが存在することが明らかとなりました。
このシステムはエネルギーの消費が小さく、環境にやさしい手法です。
今回見出された微生物由来酵素の活性や安定性の強化が達成できれば、理想的なPETリサイクルの実現が近づくと考えられます。
ペットボトルの分解に何年かかる?
2016年に発表された論文では、この細菌を用いた場合、「厚さ0・2ミリのPETを、約1カ月で二酸化炭素と水にまで分解する」となっていました。
多量のペットボトルに、この細菌を混ぜて、分解を待つのでは、何年かかるか分かりません。
そして、二酸化炭素と水にまで分解するまでに至らなくても、細菌から判明した酵素を用いて、PETの原料に相当するテレフタル酸とエチレングリコールにまで分解できれば、リサイクルが完成するので、十分だと考えられます。
なぜなら、現在PETのリサイクルと称しているのは、ペットボトルがフリースになり、次にじゅうたん、そして最後には結局、廃棄物として埋立られます。
つまりポリエステル素材を徐々に劣化させていっています。
また、この工程は膨大なエネルギーを消費し、強烈な薬剤を使用するなど、高コスト・高環境負荷という問題点を持っています。
素材として再度元の状態に戻せるのであれば、石油の使用量を減らすことになり、これによって本当の意味で「リサイクル」を実現できることになります。
<細菌発見以降のPET分解速度を加速する研究>
2018 年 11 月 29 日 アニオン性界面活性剤(石鹸のようなもの)でPETの表面を覆うことによるPETの酵素分解反応を加速させる。
慶應義塾大学宮本憲二教授らと京都工芸繊維大学の小田耕平名誉教授の研究グループが、
微量の界面活性剤で、PETの表面を酵素がくっつきやすい親水性とすることで分解速度を 100 倍以上に向上させることができたとあります。
「30℃での反応で、 36時間後には、厚さが約 20%薄くなる」ことが報告されています。
2018年4月16日 英国のメディアBBCが英ポーツマス大学の研究チームがPETを分解する酵素の研究の成果を報じました。
ある強力なX線照射を使用して、日本で発見された分解酵素ペターゼ(PETase)の高画質3Dモデルを作成し、その構造を把握した上で、ペターゼ表面のいくつかの残基をコントロールすることで酵素の効き目が向上することを明らかにしました。
自然界のペターゼを人工的な操作により変異させ、天然のペターゼよりも優れたPET分解能力を持つことを発見し、最適化することができることが明らかになりました。
この論文では、数日以内にポリエステルの分解を開始することが証明されています。
ペットボトルを食べる菌の問題点は?
ペットボトルを食べる菌、分解酵素を用いる場合の問題点を見てみましょう。
1. 分解速度を飛躍的に高める必要
まだまだ、分解速度は、十分とは言えません。
2. 安く酵素を生産するための技術を開発する
変異した酵素が有効だとすれば、これを.安価に生産する技術を開発することが必要となります。
3. 産業スケールでこの酵素を効率的に利用する技術の開発
分解速度が飛躍的に高まった酵素を用いて、大量のPETをどのように効率的に原料にまで分解するかの工学技術も重要となります。
<PETを食べる菌について>
ポリエステル系のプラスチックであるPETがその他のプラスチック(ポリエチ、ポリプロなど)と違うのは、自然界にもポリエステルの一部が存在し、植物の葉を保護しているものがあるという点です。
細菌は何百年もかけて、このポリエステルを食べるよう進化してきたそうです。
一方、堺市のPETボトルリサイクル工場の敷地の土や泥から見つかった細菌は、吉田氏が「PETを分解する細菌の存在に驚いた。PETは60年前に商品化され、このような短い時間に201-F6はPETを代謝する系(分解する)をつくりあげた」と語るように、驚くべき自然界の進化です。
しかし、さらに分解速度が速い細菌になってゆくのをただ待っていると何百年もかかるか分かりません。
他のプラスチックリサイクルの先駆けとして、PETのこの研究は非常に重要な意味を持つと思われます。
ネットの反応
細菌が新しい物質に対応する。このPET分解菌は利用したいね
どのくらい二酸化炭素を出すのか、川や海に流れてもほかの生物に影響はないのか、、増やすならまずそこです。
役に立つかどうかなんて、未来にならなければ分からない。
日本ももっと研究にお金をかけるべきだと思う。
出典:ヤフコメ
このようなPET分解細菌を生み出した自然界の力に驚く一方で、細菌の生態系への影響や副作用を懸念する声が多く出ています。
まとめ
ペットボトルを食べる菌について、その発見から、その後の研究の進展、今後の問題点についてまとめました。
この細菌を増殖させて、自然界に放つまたは、漏れてしまうというのは危険だと思えます。
変異したPET分解酵素を使って、PET分解装置、システムの閉鎖した系で、温度など最適条件下で、PETをもとの原料にまで、分解し、回収して再利用するというのが、最も賢いやり方ではと思えます。
それにしても、2016年の画期的な分解酵素発見の発表以降の日本の研究が手薄で、随分遅れているように見えます。
このままでは、英国などに先を越されてしまいそうです。
酵素などタンパクの構造解析や、タンパクの遺伝子技術による変異など日本が得意な分野であるはずです。
これこそ、国家プロジェクトとして総力をあげて取り組んでも良い課題と思われます。
大阪で行われるG20首脳会議で、提案すれば、日本の環境への取り組みの目玉になると思えますのに、どうなっているのでしょうか?
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