日米の野球はオフシーズン。新年が明け選手らは自主トレに勤しむ頃です。さて近年の野球界では、進化した「セイバーメトリックス」(ビッグデータ解析)を駆使して、さまざまな新理論が採り入れられています。その一つが「フライボール革命」。フライボール革命とは?日本での現状などをまとめました。
フライボール革命とは?日本の現状は?
「フライボール革命」とは「ゴロではなく、ボールに角度を付けて打ち上げる」ことを推奨する打撃理論です。野球界ではこれまで「レベルスイング」が理にかなった打法といわれていました。
野球のボールは水平に飛んでくるため、バットも同じ軌道で「レベル(地面と平行)」に振れば、確率高くヒットが打てるというものです。これに対し「フライボール革命」は、むしろアッパースイング気味にボールを下から叩いた方が、統計的には長打が生まれやすいという考え。長年定着した打撃理論に反することから「革命」と呼ばれます。
フライボール革命が生まれた背景には、近年米MLBで進む、最先端計測器によるビッグデータ解析があります。軍用レーダーを転用し、選手やボールの動きを記録・数値化する動作解析システム「スタットキャスト」が導入された2015年以降、急速に広がりました。
このシステムで打球速度と角度を分析すると、非常に高い確率でヒットや本塁打が出る「バレルゾーン」が判明。打球速度が158km以上、角度が30度前後の打球は8割がヒット、その多くが本塁打で、しかもアウト率もフライよりゴロの方が高いことが分かったのです。
以降多くのプロ打者が実践し、MLBでは昨季総本塁打数が過去最高の6105本に。理論は数字で証明されました。日本でも導入する選手が相次ぎ、実際に総本塁打数も16年の1341本から18年は1681本に増えました。
日本で実践して有名なのは、球界屈指のスラッガー・柳田悠岐選手(ソフトバンク)。フライ打ちを公言し昨季は前年より14%もフライ割合が増加。「本塁打も出やすくなった」と、今季はキャリアハイの36本塁打を放ちました。
フライボール革命のメリットデメリット
米国に続き日本でも席巻するフライボール革命。プロの野球は「抑えよう」「打とう」という投打のハイレベルなせめぎ合いの歴史です。この〝革命〟も近年変化球の進化で「投高打低」となったことや、同じくセイバーメトリックスにより極端な守備シフトが敷かれるようになったことへの、打者側の対抗策でもあります。
野球は統計学的スポーツで、プレー成功の確率を高めることが何より重要。守備シフトによりゴロでは捕球される確率が高いので、それを破るためにもボールを打ち上げ、外野に落とすことが有効となったわけです。
ただし、専門家によるとフライボール革命には厳格な条件があり「素人が単純にまねできるものではない」そうです。前述のバレルゾーンであれば打率は.500、長打率1.500以上とほぼ確実に2塁打や本塁打が打てます。しかもボールの中心の僅か下、斜め上19度でバットを当てると飛距離も最大化します。
しかしこれは「最低打球速度158km」という条件付き。それには128km以上のスイングスピードが必要で、そのためには(鍛え上げた)体重75kg以上が理論的に必須です。これに満たないといくらフライを打ったり大振りしてもヒットにはなりません。この理論は、あくまでプロでも一部の能力ある選手に限られたものだといえます。
またフライボール革命のデメリットは三振が増えたこと。「コツコツ当て」にいかず、バットを渾身の力で振り回すため三振が増え、MLBの年間三振数は08年から11年連続でワースト記録を更新しています。
状況に応じた打撃は減り「本塁打か三振か」と大味な攻撃が増えた印象も。投手側も早速研究し、アッパースイングではとらえにくい高めの剛速球やカーブなど縦の変化球が多用され始め、MLBでは既に本塁打数は減少に転じたという見方もあります。
フライボール革命に関するネットの反応
出典:twitter
まとめ
筆者も経験者ですが、昔の日本の野球指導では「ボールは上からたたけ」「バットを短く持ち、コンパクトにゴロを打て」が常道でした。とにかくボールを転がすことで相手の失策も生まれ、走者も進められる。フライや三振では意味がない、という趣旨です。
一方現在の少年野球では「強く打つ」「フルスイングし、ボールを遠くに飛ばす」ことが重視されるようになっているそうです。「フライボール革命」といったプロ向けの理論と子どもたちの育成法とは全く違いますが、「ベストなメソッド」の模索は野球界全てで続いています。