「一人一殺」。一見おどろおどろしい四字熟語ですが、現代日本では主に野球用語やスポーツメディアで時折目にする言葉です。
これが来シーズンから米MLBで禁止されることになり、ファンの間でちょっとした話題になっています。一人一殺とはどんな意味なのでしょうか。この言葉の読み方は?今回は「一人一殺」をめぐる野球ルールについてまとめました。
一人一殺(野球)の意味と読み方は
「一人一殺」の読み方は、一般的には「いちにんいっさつ」とされます。国語辞書によると、この言葉は以下のように定義されています。
日蓮宗の僧、井上日召が主宰した右翼団体血盟団の掲げた標語。
:デジタル大辞泉より
井上日召は昭和初期の右翼活動家で、「昭和維新」を掲げて時の政府要人を暗殺するなどのテロを行いました。その際「自分たちの仲間一人一人がそれぞれ政財界の要人をさツ害すべし」という意味で唱えたスローガンが「一人一殺」でした。
このようにいわば歴史用語の「一人一殺」ですが、現代では野球の戦術を表す際に転用されることがもっぱらです。野球ではアウトのことをなぜか日本語訳で「1死、2死」と恐ろしげに言いますが、これを援用して、1人の投手が1人の打者だけを抑えることを「一人一殺」と表現します。
別名「ワンポイントリリーフ」とも呼ばれますが、例えば左打者が打席に立つと、統計的に抑える確率が高いとされる左投手が登板。次の打者が右打ちであれば、また別の右投手と交代するといったように、1打者ずつ投手を代えていく戦術です。
主にリードしている試合の終盤で、確実に各打者を抑えたい時に採られることが多い作戦だといえます。
この「一人一殺戦術」を、MLBがこのほど「来季から禁止する」と決めました。メジャーでは投手は少なくとも打者3人、またはそのイニング終了まで投げることが義務化されます。
選手や監督らには批判も多いこのルール変更を、MLBはなぜ今行うのでしょうか。
ソフトB嘉弥真2日連続で登板 「左キラー」発動 #sbhawks #西スポhttps://t.co/wZ1nrrOxEn
— 西スポ (@nishispo_hawks) March 17, 2019
一人一殺の日本の事例は?今後禁止になるのか?
「一人一殺(読み方・いちにんいっさつ)」という、ワンポイントリリーフを意味する野球戦術。MLBはなぜこれを禁止するのでしょうか。
MLBでは昨季、全30球団の平均打率が72年以来最低となり、3年連続で1試合平均の観客数が減少。その要因は、3時間超という長い試合時間や、「投高打低」でスリリングな点の取り合いが少ないことにあるといわれます。
また「打者1人だけで降板する投手」の数も増加傾向。投手交代はその都度投球練習するなど時間がかかるため、MLBとしては一人一殺を禁止して〝時短〟と〝打撃活性化〟の一石二鳥を狙っているようです。
日本のプロ野球でも、一人一殺戦術は多く実施されています。有名なところでは、かつて「松井秀喜キラー」として名を馳せた阪神の左腕・遠山奬志元投手。当時巨人の強打者・松井選手に滅法強く、13打席連続無安打に抑えたこともあり、松井選手の打席が来るとしばしば登場して「一殺」していました。
また昨季日本一のソフトバンクも、去年の対ロッテ延長戦で1イニング4人の投手を小刻みにつぎ込んだことがあります。
MLBに倣って、一人一殺が将来NPBでも禁止されるかは分かりませんが、MLB同様日本球界でも「継投の戦術が大きく制限される」「リリーフのスペシャリストの価値が下がる」など、禁止には反対論が根強いようです。
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— NANJ of US プロ野球速報 (@nanj_of_us) January 14, 2017
一人一殺に関するネットの反応
出典:twitter
まとめ
MLBは今、試合時間短縮に躍起です。今季は投手交代を伴わずに首脳陣らがマウンドに行ける回数を1試合6度から5度に減らし、攻守交代も2分間に短縮されます。
投球間隔を20秒以内に制限する「ピッチクロック」という時計計測もオープン戦で試験導入。サインを複雑化させる「サイン盗み」も厳罰化を検討するなど、あの手この手でスピードアップに取り組んでいます。
ただファンの中には「短くするだけで本当に人気が出るの?」と、短縮化が野球ならではの面白みまで奪うのではないかという疑念があるのも事実。改革は大事ですが、野球人気回復の「本質」に迫るような策が望まれます。
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