「相続法」が約40年ぶりに大きく変わり、改正相続法の多くは本日7月1日から施行されます。
2015年の税制改正で、相続税の申告者が相続人の4人に1人になったという都内の状況では、これをしっかり確認しておく必要がありそうです。
改正相続法を分かりやすく解説すると?
改正相続法をできるだけ分かりやすく解説してみましょう。
分かり易くするため、都内の自宅に住んでいた夫婦の夫が亡くなり、残された妻と長男、長女が相続するケースで考えて見ましょう。
今回の一連の改正の目的は、高齢化時代に入り、夫に先立たれた妻の生活へ配慮するのと、相続をめぐる紛争防止のために遺言書の利用を促進しようとするものです。
多くは本日施行されますが、これ以外には、
(1)遺言書を書きやすくするため、自筆証書遺言の方式を緩和する方策(施行2019年1月13日)、遺言書保管法(法務局に自筆証書遺言を預けられる制度)(施行期日2020年7月10日)や、
(2)妻が住んできた自宅に住み続けられるようにする配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等(2020年4月1日)があり、これらと一体となっています。
振り返ってみますと、2015年の税制改正により、相続税の課税対象となる人が一気に増えました。
これまで、5,000万円+(1,000万円×法定相続人)以内であれば、申告の必要がなかったものが、3,000万円+(600万円×法定相続人)となり、上記事例のように、妻と子供ふたりでは、8000万円以下では、申告不要だったのが、4800万円を超えると申告が必要となり、4割も引き上げられました。
これで、死亡者数に対する相続税の課税件数の割合が、2015年には、これまでの倍の8%に、東京国税局管内(東京都、千葉県、神奈川県、山梨県)では、課税対象になる人の割合は12.7%にまでなっています。
即ち、これまで相続税の納税者は、会社の社長や広大な土地を持つ資産家などが大半でしたが、都会で、自宅を持っているだけで対象になる可能性が極めて高いと言うことになります。
ただし、宅地面積330㎡以下の自宅であれば、税金の金額の80%が減額対象となりますが、適用を受けるためには、申告が必要となります。
また、遺産分割をめぐる争いの件数は増えており、2016年には年間1万4622件と大幅に増加しています。
しかも、相続財産が5000万円以下など比較的少額の案件が全体の約75%ともいわれています。
また、相続財産がなくても、もし亡くなった親が、借金を抱えていたとすれば、亡くなってから3ヶ月以内に相続放棄をしないとその借金を承認したことになり支払い義務が生じます(厳密には負債の存在を知ってから3か月以内)。
また、相続税の支払いは、相続開始後10ヶ月以内に相続税の申告をしたうえで、現金で支払いもしなければなりません(遺産相続協議が整はないとの理由で、分割見込書の提出により、申告期限後3年以内とし、相続人同士で金額を修正することはできます)。
では、以上の状況を頭において、今回の改正相続法を見て行きましょう。
1.遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せる制度
故人の口座から葬儀代や妻の生活費を引き出そうとしたところ、口座が、銀行等によって凍結され、困ったというケースをよく耳にします。
これまでは、遺産分割協議を終えるまでは、相続人全員の同意がなければ、引き出すことができず、病院代の支払い、その後の法事での支払いに事欠くというケースも多々ありました。
これへの対策ということで、
遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せる制度ができました。
一定額というのは、銀行等ごとに故人の預貯金残高の3分の1について、相続人の法定相続分をかけたもので、例えば残高が900万円あって相続人が妻と長男、長女合わせて3人だとすると、300万円×3分の1の100万円まで引き出せることになります。
金融機関ごとに150万円の上限がありますが、葬儀代や当面の生活費といった、当面の少額の支払いに充てることができます。
2.法定相続人以外でも介護などの貢献分が認められる制度
例えば、長男の嫁が夫の父を介護しても、介護もしなかった子供が遺産を相続しているのに、遺言がない限り長男の嫁に遺産相続がなくて悔しい思いをしたという話も聞きます。
今回の改正で、相続人以外の親族(例えば、長男や次男の嫁)が、無償で療養看護をした場合、相続人に対して「特別寄与料」として金銭の支払いを請求できるようになりました。
3.最低限の取り分(遺留分)をお金で請求できる制度。
相続人には遺言の内容にかかわらず、請求することで得ることができる「遺留分」があります。
基本的に法定相続分の2分の1で、夫の遺産が評価額6千万円の自宅と預金2千万円の計8千万円で、上記のような相続人が妻と長男、長女の3人のケースで考えてみましょう。
法定相続分は妻が1/2の4千万円、長男、長女がそれぞれ2千万円、長男、長女の遺留分はその半分の千万円になります。
遺言では、妻に自宅の権利全てと預金2千万円を渡すと書かれていたと仮定します。
ここで、ふたりの子供が遺留分として千万円を請求し、話し合いがまとまらなければ、自宅が3名の共有状態になって権利関係が複雑になり、将来自宅を処分しにくくなります。
そこで、今回の改正では、不足額をお金で請求できるようになり、自宅の共有状態を回避できるようになります。すなわち、妻が子供それぞれに遺留分として千万円を支払うことでこの件を解決できることになります。
配偶者控除が1億6千万円ありますので、遺言で、妻に、すべてを相続させれば、相続税がかかる人などほとんどいないと思われます(相続税の申告が前提)が、遺留分が絡んでくる、上記のようなことを考えておく必要があります。
最低限知っておくべき3つのポイント
今回の改正を踏まえて、相続に際して最低限知っておくべきことを3つ挙げてみます。
1.相続財産はどれくらいになるか把握しておく
現金や、株式などは、相続時の価値ですので、簡単ですが、問題は不動産です。
特に持ち家の場合は、相続価値がどれくらいかを確認しておくのが大切になります。
ここで注意しなければ、ならないのは、相続税の計算時の評価額と遺留分を計算するときの評価額が違う点です。
相続税の場合は、
家屋:固定資産税評価額=相続税等評価額 固定資産税の「納税通知書」にある固定資産税評価額となりますが、これは、時価の70%程度になるように設定されています。
また
土地:路線価からの算出または、固定資産税評価額で評価されますが、それぞれ、時価の80%程度とか70%程度となっています。
さらに自宅であれば、8割の控除など、実際の税額計算の基礎額は小さくなります。
ところが、遺留分を計算するときには基本的に時価による評価をする必要があります。
従って、これらについて、おおよその見積もりをしておき、必要なら、現金を準備する必要があります。
また、負債が財産を上回る場合は期限内(3か月)に相続放棄する必要がありますので、この点もしっかり確認しておく必要があります。
2.相続に伴う費用の引き出しには時間がかかる
今回の改正で、遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せることにはなりました。
しかし、実際に引き出すには故人や相続人全員の戸籍謄本、預金を払い戻す人の印鑑証明書などの書類をそろえる必要があり、金融機関での手続きも含めると2~3週間程度はかかると考えておいた方がよさそうです。
生前贈与しておき、相続人の手元にそれなりの現金を準備しておく、生命保険の代理請求人として家族を指定しておくなどを考えておくべきです。
3. 相続人となる人とのコミュニケーションを日ごろから良くしておく
基本的に、遺産相続協議をまとめたうえで、相続開始後10ヶ月以内に相続税の申告をしたうえで、現金で支払いをする必要があります。
また、2の介護などの貢献分が認められる制度の導入で、例えば介護した長男の妻の貢献分が認められれば、当然他の相続人の相続分は減ることになります。
長男の嫁が使った時間を記帳するなど客観的に介護の寄与を示せるような証拠(レシート、領収書、介護日誌、介護業者とのメール等でのやり取り)を残すのはもちろん、話し合いができる関係となるよう日ごろからの互いのコミュニケーションをしっかりとっておくことが大切となります。
相続財産1000万円程度で多くのもめ事が発生しているようです。
ことが起こってから、数十年ぶりに顔を合したのでは、とても話し合いがうまくまとまるとは思えません。
改正相続法のネットの反応
子供は、自分達で頑張りましょう。
親の存命時に、すでに相当な恩恵を受けてるんだし。
出典:ヤフコメ
相続の関係に時間を掛けたり、争ったり、したくなどないというのが、大方の意見でしょうが、やはり法律の基本を押さえていないと、予想もしない事態を招くことにもなりかねません。
まとめ
改正相続法をできるだけ、分かりやすく解説し、変更点と最低限知ってくべきことをピックアップしました。
相続は、時間の限られたなかで、ばたばたと複雑な作業をする必要があり、前もって考えるのはなるべく避けたいという気持ちもあります。
しかし、できる部分だけでも、相続させるひとも含め、準備しておくのが後で取り返しがつかなくなったり、親子兄弟姉妹間がぎくしゃくしないためにも大事だと思えます。
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