新年を迎え、日米の野球界もキャンプインまであと約2か月と、かすかに〝球春〟の足音が聞こえる頃となりました。昨季の野球界、特にMLBでは、これまでの定石を覆す革新的な戦術が試され、今後の新潮流になるのではと注目されました。その一つが「オープナー」です。オープナーとは?日本でも採用された例はあるのでしょうか。
オープナーとは?
オープナーとは、本来8、9回の試合最終盤を締める「クローザー」と呼ばれる役割の投手が、1回に先発を務める戦術、あるいはその選手を指します。
いわゆる先発投手と違う点は、クローザーが1~2回しか投げないのと同様、オープナーも「1回限定」が一般的なことです。2回以降は本来の先発投手が5~6回を投げたり、または各投手が2回ずつなど小刻みに継投していきます。
これまでの野球の常識は「先発投手が最低1~7回、できれば完投し、残り2回程度を救援陣が抑える」というもの。これを「逆さま」にしたかのような発想の大転換が試されたのが、昨年5月のMLB・レイズ対エンゼルス戦でした。
エンゼルスはトラウト、プホルス選手ら右の強打者が上位に並ぶ打線。これに対しレイズはMLBで100セーブ以上を挙げているベテランクローザーのロモ投手を先発マウンドに送りました。
ロモ投手は9回と同じように全力投球。見事1回を無失点に抑えます。翌日の試合でも先発し2試合計2回1/3を無失点、6三振で得点を防ぎました。先発投手が手薄のレイズは初回の失点率が高く不調の要因でしたが、昨季はこの戦術を多用。初回の防御率が低下し、2回からの「第二先発」となった新人ヤーブロー投手は16勝を挙げ、チームも90勝と大健闘につながりました。
オープナーの利点は「初回だけ限定」にすることで投手が全力で投げられること。完投型の投手では力をペース配分するため、試合序盤はどうしても抑えがちになり、失点するケースが多くなります。特に初回はチーム主力の打者が並ぶ上位打線でもあり、打たれる確率が高まります。
2回以降なら下位打線中心となり、次の投手の負担も軽減されます。レイズの成功に他チームも次々追随。MLBでは細かい継投がすっかり定番化しました。
こうした流れは日本でも例外ではないようです。
オープナーが日本の野球でも事例あり
オープナーとは、日本のプロ野球でも実施されたことがあるのでしょうか。
過去には2007年のオールスター第1戦で、全セの落合監督が、上原→高津→林昌勇投手ら各球団のクローザーばかり9人を1回ずつ登板させ、見事1安打完封リレーを達成しました。これは昨季のMLB公式戦でも「ブルペンデー」という呼称で導入されている新戦術です。
純粋な「オープナー」ではありませんが、昨季日本一に輝いたソフトバンクもシーズン後半、本来は中継ぎ起用が多い高橋礼投手をサプライズで4回程度の短期先発で起用し、強力西武打線を無得点に抑えました。プロ野球では19年シーズン、1軍登録人数が1人増えて29人になることもあり、オープナーなどの新戦術を試すチームも増えそうです。
ただオープナーには課題もあります。短い回限定でも投手はそれなりに準備が必要なため、登板数が増えることで疲労も蓄積します。ドジャースのエース、カーショー投手は「シーズンは162試合の長丁場。これからも先発が長い回を投げないといけないことに変わりはない」と指摘します。
また先発投手によって相手が打線を組み替えてくれば前提も崩れます。強打者が下位に並び2回以降から登場すれば、これまでと同じことになるからです。
さらに、オープナーとは抑えても勝利もホールドもつかず、各投手とも先発より投球回数が減ります。選手側には「評価の指標がないと〝使い減り〟するだけで、契約更改で不利になるのでは」との懸念もあります。
オープナーに関するネットの反応
出典:twitter
まとめ
近年のプロ球界は投手の「小刻み継投」「役割分担」が顕著です。先発完投型の規定投球回数をクリアする投手は年々減少。昨季のMLBサイヤング賞(最優秀投手)は史上最少10勝のデグロム投手(メッツ)で、長年「好投手の基準」とされた勝利数の価値が低下している証しともいわれます。オープナーなどが定着すれば、野球の投手のあり方自体が今後大きく変化していくかもしれません。
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